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電磁界逆散乱問題解析(誘電率・導電率分布推定)

研究背景
 マイクロ波帯の超広帯域(UWB)レーダは,特に医療画像診断において, 従来の内部計測技術における問題点(超音波:高周波減衰による分解能の制限・精度の弾性率依存, X線:被験者の被曝等,MR:装置の大型化・高コスト,テラヘルツ波or OCT:到達深度が数mm程度)を解決する技術として 注目を集めています.特に,癌細胞の誘電率・導電率が正常細胞のそれと著しく異なることを利用し, 乳癌の早期発見・治療のための画像診断技術に有望です. また同技術は,災害後の水道管・ガス管破裂探知や老朽化した道路や橋の亀裂腐食探知等の 災害予防・復旧技術としても有用です.
 一方,コンクリート,空洞,鉄筋及び腐食した鉄筋の種類によって複素誘電率は大きく異なり, また癌組織と乳腺組織を正確に識別するためには,対象内部の複素誘電率分布を高精度に 再構成することが重要になります. この複素誘電率再構成法として有望であるのが,逆散乱解析法またはトモグラフィ方式と呼ばれるものです.

従来のトモグラフィ方式の問題点
 逆散乱解析またはトモグラフィ法では,電磁波の散乱現象を完全に記述するMaxwell 方程式から導出される 領域積分方程式における逆問題を観測された散乱電界より解く(逆散乱問題とも呼ばれる)方法です. 計測方法としては,X線CTのように複数の方向から電磁波を照射し,その散乱電界から 適切な画像解析法を適用して,複素誘電率の分布を再構成するというものです.
 一方,マイクロ波はX線に比べて波長が長いため,内部で回折・多重散乱等を生じるため, CTにおける画像解析(Radon変換,線形解析)は適用できません. すなわち,上記の問題はいわゆる非線形問題であり,また 観測されるデータ数が未知数(画像ピクセル数)に対して少ないという不良設定の問題の一つになり, 難しい問題の一つとして認識されています.

レーダ方式とトモグラフィ方式の融合による革新的マイクロ波イメージング
 これらの問題を解決するため,本研究室では レーダ方式(SA法やRPM法)と,トモグラフィ方式を有機的に統合する枠組みを構築しています. 具体的には,レーダ(RPM)画像から目標(癌組織・空洞等)が存在する関心領域(ROI: Region of Interest)を ターゲット近傍に絞り込むことで飛躍的に未知数を減らし,かつROI領域も逐次更新させることで, 極めて劣悪な逆問題において,高精度形状推定と複素誘電率推定の両方を実現させます(図4参照). 図XにRPM法と逆散乱解析法の一つであるDBIM(Distorted Born Iterative Method)の融合の結果を 示します.コンクリート内部に空洞があるというモデルを想定し,まずRPM法により対象の位置・形状・サイズを推定し, ROI領域を設定します.これにより,未知数は1/100程度削減されます. 図Xにより,ROIを制限しない場合に比べて ROIを制限することにより, 通常の逆散乱解析法では再現できないレベルの複素誘電率再構成精度を得ることができます. また,トモグラフィ法の特徴を生かしてROIを更新させることで、より正確な空洞の位置・形状を推定することができ, レーダとトモグラフィの双方向処理を実現させることができます。

今後の課題
 より現実的かつ大規模な問題に対しても精度を保持させるため, 深層学習やスパースモデリング等を駆使したアプローチを検討しています.

学会発表資料

図1:

図2:

参考文献

  • [1] Shuto Takahashi, Katsuyuki Suzuki, Takahiro Hanabusa and Shouhei Kidera "Microwave Subsurface Imaging Method by Incorporating Radar and Tomographic Approaches", IEEE Trans. on Antennas and Propagation, 2022.