マイクロ波による道路・橋・トンネル等の非破壊検査
研究背景と研究目的
日本におけるトンネル総長は,鉄道トンネル:2300km以上, 道路トンネル:4100km以上に及び,高速道路などはその数十倍もの長さがある. その大部分は高度成長期に急速に建設が進められ,近年老朽化や地震等によるトンネル天板崩落,橋梁崩壊,道路陥没等の危険性が非常に高まっている. このため,道路等の内部を迅速かつ高い欠陥識別率でスクリーニングできる技術が待望されている.従来の打音検査や超音波計測は接触計測が必要であり, 大規模な領域を隈なく検査することは困難である.またレーザ計測では表面剥離等のみが検出可能であり,コンクリート内深部の空洞,土砂化及び鉄筋腐食等を判別することはできない. 一方,マイクロ波による非破壊検査は,空間減衰が無視できるため,数m離れたところからの非接触計測を可能にし, かつ低周波側(1-3GHz)程度のマイクロ波であれば,コンクリート内部で50cmから1m程度の到達深度を実現できるため, 送受信モジュールを車両に搭載し,道路やトンネル内部で走行させながら散乱データを取得することで,大規模な領域を短時間でモニタリングすることが可能である(図1).
従来のマイクロ波探査では,レーダ方式が主流であるが,複素誘電率の情報を抽出できないため, 画像から空洞,鉄筋腐食等の物性識別をすることが極めて難しい.一方,コンクリート,空洞,鉄筋錆等では, 複素誘電率は有意に異なることがわかっている(図1右参照). 複素誘電率分布を高精度に再構成することで,同技術における識別性能が格段に向上する. 一方,従来のトモグラフィ方式では,特に観測方向が制限される非破壊検査モデル(対象を取り囲む素子配置が不可)において, 不良設定性(観測データ数が未知数に比べて非常に少ない)が顕著となり,十分な精度が得られないことが問題となっています。
これに対して、本研究室ではレーダとトモグラフィを統合させた手法を提案しています。 空洞や鉄筋等は,コンクリートと複素誘電率が顕著に異なるため、強い反射波が得られます。 同反射波を用いてレーダ的な手法により,その位置・形状を凡そ推定することができます。 レーダ手法としては高精度なRPM法を適用します。 空洞・鉄筋すなわち、関心領域(ROI:Region of Interest)をレーダ方式で絞り込むことで, トモグラフィ方式における未知数の飛躍的に減らすことが可能となり,一般には精度を得ることが 非常に困難な非破壊計測モデルでも高い精度を達成することができます。
図2のような数値計算モデルを想定します。コンクリート内部には空洞や各種の錆に相当する複素誘電率を有した 小さなターゲットが存在します.図3は、空洞の部分を拡大した図です. 図3中央のトモグラフィ方式のみによる再構成では、上記の不良設定性により、 再構成精度が非常に悪く、空洞の識別は困難です。 一方,図3右図は、RPM法とトモグラフィ方式を統合した結果であり、 ROIを制限し,未知数を削減することで非常に難しい観測モデルでも高い精度を保持し、空洞の識別に有用であることがわかります。
現在は同手法を実際のコンクリート試供体を用いて検証しており,省庁プロジェクトや共同研究も含めて研究を推進しています。
Shuto Takahashi, Katsuyuki Suzuki, Takahiro Hanabusa and Shouhei Kidera
"Microwave Subsurface Imaging Method by Incorporating Radar and Tomographic Approaches",
IEEE Trans. on Antennas and Propagation, (in press), 2022.
Takahiro Hanabusa, Takahide Morooka and Shouhei Kidera.
"Deep Learning Based Calibration in Contrast Source Inversion Based Microwave Subsurface Imaging",
IEEE Geoscience and Remote Sensing Letters, vol. 19, pp. 1-5, 2022.
日本におけるトンネル総長は,鉄道トンネル:2300km以上, 道路トンネル:4100km以上に及び,高速道路などはその数十倍もの長さがある. その大部分は高度成長期に急速に建設が進められ,近年老朽化や地震等によるトンネル天板崩落,橋梁崩壊,道路陥没等の危険性が非常に高まっている. このため,道路等の内部を迅速かつ高い欠陥識別率でスクリーニングできる技術が待望されている.従来の打音検査や超音波計測は接触計測が必要であり, 大規模な領域を隈なく検査することは困難である.またレーザ計測では表面剥離等のみが検出可能であり,コンクリート内深部の空洞,土砂化及び鉄筋腐食等を判別することはできない. 一方,マイクロ波による非破壊検査は,空間減衰が無視できるため,数m離れたところからの非接触計測を可能にし, かつ低周波側(1-3GHz)程度のマイクロ波であれば,コンクリート内部で50cmから1m程度の到達深度を実現できるため, 送受信モジュールを車両に搭載し,道路やトンネル内部で走行させながら散乱データを取得することで,大規模な領域を短時間でモニタリングすることが可能である(図1).
図1:マイクロ波コンクリート非破壊検査モデル(左),各物性における誘電率比較(右)

従来のマイクロ波探査では,レーダ方式が主流であるが,複素誘電率の情報を抽出できないため, 画像から空洞,鉄筋腐食等の物性識別をすることが極めて難しい.一方,コンクリート,空洞,鉄筋錆等では, 複素誘電率は有意に異なることがわかっている(図1右参照). 複素誘電率分布を高精度に再構成することで,同技術における識別性能が格段に向上する. 一方,従来のトモグラフィ方式では,特に観測方向が制限される非破壊検査モデル(対象を取り囲む素子配置が不可)において, 不良設定性(観測データ数が未知数に比べて非常に少ない)が顕著となり,十分な精度が得られないことが問題となっています。
これに対して、本研究室ではレーダとトモグラフィを統合させた手法を提案しています。 空洞や鉄筋等は,コンクリートと複素誘電率が顕著に異なるため、強い反射波が得られます。 同反射波を用いてレーダ的な手法により,その位置・形状を凡そ推定することができます。 レーダ手法としては高精度なRPM法を適用します。 空洞・鉄筋すなわち、関心領域(ROI:Region of Interest)をレーダ方式で絞り込むことで, トモグラフィ方式における未知数の飛躍的に減らすことが可能となり,一般には精度を得ることが 非常に困難な非破壊計測モデルでも高い精度を達成することができます。
図2のような数値計算モデルを想定します。コンクリート内部には空洞や各種の錆に相当する複素誘電率を有した 小さなターゲットが存在します.図3は、空洞の部分を拡大した図です. 図3中央のトモグラフィ方式のみによる再構成では、上記の不良設定性により、 再構成精度が非常に悪く、空洞の識別は困難です。 一方,図3右図は、RPM法とトモグラフィ方式を統合した結果であり、 ROIを制限し,未知数を削減することで非常に難しい観測モデルでも高い精度を保持し、空洞の識別に有用であることがわかります。
現在は同手法を実際のコンクリート試供体を用いて検証しており,省庁プロジェクトや共同研究も含めて研究を推進しています。
図2:数値計算モデル(左:比誘電率分布、右:導電率分布)

図3:空洞の誘電率分布(左:真値、中央:従来のトモグラフィ法、右:レーダとトモグラフィ法の融合)
