がん細胞検知・治療などの非侵襲生体計測への応用
乳癌細胞の画像診断応用
国内外の乳癌診断においてはX線撮像が主流であるが,放射線被曝及び乳房の強圧迫のため,罹患率が癌の中でトップであるにも関わらず, 受診率は10~20%程度に留まり,また10mm未満の初期癌を識別することが難しいため, 偽陽性率(癌がない場合に陽性と診断される確率)が50%以上にも上るということが報告されています.
一方,マイクロ波による乳がん画像診断は,携帯電話やwifi等で使用される安全な波長帯の電磁波を使用し,装置もコンパクトかつ安価であるため, より簡易かつ高頻度な乳癌スクリーニング技術として有望である.特に癌組織の複素誘電率は,脂肪等の組織の複素誘電率に対して十倍以上程度高いことが確認されており, 複素誘電率分布の3次元画像化を実現させることで, X線や超音波では検出の難しい 10mm未満のサイズの初期癌の検出が実現できるとされています.
マイクロ波による癌診断では,癌細胞の導電率が正常細胞のそれと著しく異なることを利用して, 対象からの反射信号から画像化を行うレーダ方式と,散乱信号から直接的に複素誘電率を再構成するトモグラフィ方式のいずれかがが採用されています。
本研究室では,複素誘電率を直接的に再構成できるトモグラフィ方式に注目しています. トモグラフィ方式は,順問題解析等を併用するために膨大な計算時間が必要ですが, これを回避する方法として,CSI(Contrast Source Inversion)法があります. 同手法はデータ方程式と状態方程式と呼ばれる二つの積分方程式を同時に解くことで, 非線形な問題に対しても,精度を確保できることがわかっています。
一方,十分な解像度を保持するためには,画像ピクセルサイズを小さくとる必要があります。 この場合,多数の未知数を設定する必要があり,観測データ数よりも大きくなるため, 解が一意に決定できない不良設定問題を解く必要があり、これが分解能の制限になっています。 本研究室では、誘電率の高い乳腺やがん組織のみを再構成することに着目し, 脂肪等の組織に未知数を割り当てないというアルゴリズムを考案し, 未知数を大幅に減らすことで,分解能を高める方法を提案しています。 図1に従来のCSIとROIを制限したCSIによる再構成結果を示します。 同結果より、提案した方法は従来よりも分解能を高め、がん細胞の誘電率も高い精度で推定し, がん細胞識別において格段に有用であることがわかります。
現在は,これらの手法を図2のようなマイクロ波マンモグラフィ装置を用いて,ファントムや臨床データにより, その有効性を検証しています。
マイクロ波アブレーション(焼灼)を用いた癌治療応用
生体組織は導電率が高いため,マイクロ波のエネルギーを熱として吸収します.このため,プローブを用いてがん細胞が存在する領域に マイクロ波を照射することで,同領域を焼灼し,がん細胞を死滅させることができます.これはマイクロ波アブレーション (Microwave Ablation:MWA)という治療法であり,外科的な手術なしにがん細胞を確実に除去できるため、 有望ながん治療法として注目されています.一方で,がん細胞以外の正常細胞を焼灼しないため,同領域の範囲を逐次モニタリングして, エネルギー量を調整しなければいけません.一般に誘電率は温度依存性を有しており,組織の温度が100度近くに達すると, 同誘電率及び導電率は本来の60から70%程度に減少すると報告されています.本研究室では同アブレーション領域を効果的な 信号処理法によりリアルタイムで計測する方法を提案しています.
図3は本研究室で開発したモニタリング結果であり,高精度にその領域が推定されています. この処理時間は通常のPCで0.1秒以内で達成可能であり,同治療技術への実現に大きく貢献するものと考えています.
Kazuki Noritake and Shouhei Kidera,
"
Boundary Extraction Enhanced Distorted Born Iterative Method for Microwave Mammography
",
IEEE Antennas and Wireless Propagation Letters., Vol.18, NO.4, pp.776-780, Apr., 2019.
H. Sato and S. Kidera,
" Multi-frequency Integration Algorithm of Contrast Source Inversion Method for Microwave Breast Tumor Detection"
41st IEEE International Engineering in Medicine and Biology Conference 2019 (IEEE EMBC 2019), Berlin, Germany, July, 2019. K. Kanazawa and S. Kidera,
" Experimental Validation for Microwave Based Real-time Monitoring for Microwave Ablation Treatment"
41st IEEE International Engineering in Medicine and Biology Conference 2019 (IEEE EMBC 2019), Berlin, Germany, July, 2019.
国内外の乳癌診断においてはX線撮像が主流であるが,放射線被曝及び乳房の強圧迫のため,罹患率が癌の中でトップであるにも関わらず, 受診率は10~20%程度に留まり,また10mm未満の初期癌を識別することが難しいため, 偽陽性率(癌がない場合に陽性と診断される確率)が50%以上にも上るということが報告されています.
一方,マイクロ波による乳がん画像診断は,携帯電話やwifi等で使用される安全な波長帯の電磁波を使用し,装置もコンパクトかつ安価であるため, より簡易かつ高頻度な乳癌スクリーニング技術として有望である.特に癌組織の複素誘電率は,脂肪等の組織の複素誘電率に対して十倍以上程度高いことが確認されており, 複素誘電率分布の3次元画像化を実現させることで, X線や超音波では検出の難しい 10mm未満のサイズの初期癌の検出が実現できるとされています.
マイクロ波による癌診断では,癌細胞の導電率が正常細胞のそれと著しく異なることを利用して, 対象からの反射信号から画像化を行うレーダ方式と,散乱信号から直接的に複素誘電率を再構成するトモグラフィ方式のいずれかがが採用されています。
本研究室では,複素誘電率を直接的に再構成できるトモグラフィ方式に注目しています. トモグラフィ方式は,順問題解析等を併用するために膨大な計算時間が必要ですが, これを回避する方法として,CSI(Contrast Source Inversion)法があります. 同手法はデータ方程式と状態方程式と呼ばれる二つの積分方程式を同時に解くことで, 非線形な問題に対しても,精度を確保できることがわかっています。
一方,十分な解像度を保持するためには,画像ピクセルサイズを小さくとる必要があります。 この場合,多数の未知数を設定する必要があり,観測データ数よりも大きくなるため, 解が一意に決定できない不良設定問題を解く必要があり、これが分解能の制限になっています。 本研究室では、誘電率の高い乳腺やがん組織のみを再構成することに着目し, 脂肪等の組織に未知数を割り当てないというアルゴリズムを考案し, 未知数を大幅に減らすことで,分解能を高める方法を提案しています。 図1に従来のCSIとROIを制限したCSIによる再構成結果を示します。 同結果より、提案した方法は従来よりも分解能を高め、がん細胞の誘電率も高い精度で推定し, がん細胞識別において格段に有用であることがわかります。
現在は,これらの手法を図2のようなマイクロ波マンモグラフィ装置を用いて,ファントムや臨床データにより, その有効性を検証しています。
図1:CSI法による乳房ファントム再構成結果(左:真値,中央:従来CSI,右:ROI制限付きCSI)

図2:マイクロ波マンモグラフィ装置(左)と乳房ファントム(右)

生体組織は導電率が高いため,マイクロ波のエネルギーを熱として吸収します.このため,プローブを用いてがん細胞が存在する領域に マイクロ波を照射することで,同領域を焼灼し,がん細胞を死滅させることができます.これはマイクロ波アブレーション (Microwave Ablation:MWA)という治療法であり,外科的な手術なしにがん細胞を確実に除去できるため、 有望ながん治療法として注目されています.一方で,がん細胞以外の正常細胞を焼灼しないため,同領域の範囲を逐次モニタリングして, エネルギー量を調整しなければいけません.一般に誘電率は温度依存性を有しており,組織の温度が100度近くに達すると, 同誘電率及び導電率は本来の60から70%程度に減少すると報告されています.本研究室では同アブレーション領域を効果的な 信号処理法によりリアルタイムで計測する方法を提案しています.
図3は本研究室で開発したモニタリング結果であり,高精度にその領域が推定されています. この処理時間は通常のPCで0.1秒以内で達成可能であり,同治療技術への実現に大きく貢献するものと考えています.
図3:マイクロ波アブレーション範囲推定例

参考文献
" Multi-frequency Integration Algorithm of Contrast Source Inversion Method for Microwave Breast Tumor Detection"
41st IEEE International Engineering in Medicine and Biology Conference 2019 (IEEE EMBC 2019), Berlin, Germany, July, 2019.
" Experimental Validation for Microwave Based Real-time Monitoring for Microwave Ablation Treatment"
41st IEEE International Engineering in Medicine and Biology Conference 2019 (IEEE EMBC 2019), Berlin, Germany, July, 2019.